どこまでもどこまでも暗く曇った空。
 耳ざわりな叩きつける雨音。
 隣には薄鈍色の髪の男。
 なんだって、二人仲良く雨宿りなんてしてるんだろう。
 バカみたいにぐるぐると繰り返す運命の中。一度もこんなことはなかったのに。


 だって、この男は敵だ。
 大切な人たちを殺した。
 戦場で刀を合わせた。
 何度も何度も屠った。
 そんな敵。
 それが、なんだってこんな・・・。



 「次に会うときまでに死ぬなよ?」
 「死なないよ。たとえ、貴方と戦ったって」



 そう、きっとまた。
 私は殺す。
 何度だって繰り返す。
 この男は私の手をすり抜けて。
 海の底へ。
 何度も何度も何度も何度も何度も。


 いつからだったんだろう。
 死なせたくないと思うようになったのは。
 笑って沈んでくコトが許せなくなったのは。





 それでも、きっと今回も。





 『予定外の出来事』






 背中っていうのはその人の人間性が出ると思う。
 戦うようになって、みんなの背中を見るようになってからはとくに。
 例えば、九郎さんの背中は頼もしい。
 先生の背中は父親のよう。
 将臣くんの背中は、相変わらず甘えられて。
 あの人の、知盛の背中は・・・。










 「なんで、今日はこんなに怨霊が多いの!?」
 「んなこと、こっちが聞きてぇよ!!」
 「楽しめそうじゃないか」
 「「楽しくない!!!」」



 木の覆い茂る、熊野の山道。
 封印しても封印しても、あとからわんさかと怨霊の群れ。
 今日は本当についてない。
 星占いでも、血液型占いでも、干支占いでも、ワースト1決定。



 「っていうか、囲まれた!?」
 「みたいだな」
 「8匹」



 知盛が小さく呟く。



 「?」
 「一人当たりの怨霊の数か?」
 「雑魚に興味はないが、退屈しのぎにはなるな・・・」



 そういうと知盛は前方にいる怨霊を切り伏せていく。
 剣鬼という言葉がこれほど似合う男は他にいないと思う。
 本当に楽しそうに剣を振るう。



 「望美っ!!」
 「えっ?」



 いつの間にか、眼前には血に飢えた怨霊。
 刀の構えが間に合わない。



 「・・・っ!!」



 やられると思った。
 間違いなく。
 少なくとも、それなりの傷はできるだろうと。



 「・・・?」



 何も起こらない。





 「いつまで、呆けているつもりだ?」





 目の前にあったのは、山吹色の着物を着流した背中。



 「・・・助けて、くれたの?」
 「お前を傷つけていいのは、俺だけだからな・・・」



 少しでも、甘いことを期待した私がバカだった。
 いつだってこの男は私と戦うことしか考えてない。



 「それで。いつまで、しゃがみこんでいるつもりだ・・・?」
 「いま、立ちます!!」



 乱暴に立ち上がると、知盛が喉の奥で笑った。



 「知盛は前にいるヤツ、お願いね。後ろのは私がやるから」
 「俺に背中を預けると・・・?」
 「そうだよ」
 「また、ずいぶんと信用されたものだな」
 「知盛は背後から斬りかかったりしないもの」



 にっこりと笑って言えば、深い深いため息。
 そのくせ、唇の端はうっすらと上がっていて。



 「まぁ、構わんさ・・・」



 それだけ言うと、知盛は怨霊を倒しにかかる。
 私もくるりと後ろを向いて、怨霊を封印し始めた。





 知盛の背中は。
 広くて大きくて近寄りがたくて。
 それでも、私を受け止めてくれた。





 『後姿』


 長々と拍手に居座ってたブツです。
 今さら、こんなトコにログをあげなくても良かったですか?
 やすんの影が見当たらない頃でした(笑)


 作成日不明