Nothing out of the ordinary
朝餉の準備も終わって、土間からは譲のつくった料理のいい匂いがしてくる。
外は晴れ。日光に照らされた紅葉が目に鮮やかだ。
そんな穏やかな朝、銀はいつも通り望美の部屋に来ていた。
「神子様、神子様」
「あと、五分〜」
寝ぼけた声で言いながら、望美はパタンと寝返りをうつ。
ちょうど銀に背を向ける格好になる。
初めのうちこそ嫌われたのではないかと慌てていたけれど、 今はもう動じもせずに銀はそっと枕元を立つ。
「ならば、先に将臣様を起こして参りましょう」
「だめ〜〜〜〜!!」
望美がガバッと布団を跳ね上げて飛び起きた。
牡丹色の長い髪が体の動きに合わせて大きく揺れる。
「おはようございます、神子様」
やわらかな微笑。吉野で出会ったときに比べて銀の表情は豊かになった。 とくに望美といるときは。
「将臣くん、まだ起きてきてない?」
朝のあいさつを忘れるほどに必死。真剣なまなざしで望美は銀を見る。
それにこたえるように銀の笑みは深くなる。
「はい。まだでございます」
「やった。今日こそは…!」
片手で小さくガッツポーズ。ようやく連敗記録をストップできると望美は喜んでいたのだが。
「『今日こそは』なんだって?」
からかうような声とともに柱の陰から現れたのは兄代わりの幼なじみ。
将臣は勝ち誇った笑顔で望美を見た。
「これで二週間連続、俺の勝ちだな」
「なんで、起きてくるの〜!?」
「お前の起きるのが遅いんだろ」
二人は川湊での呪詛探しの一件以来、どちらが早く起きられるかを毎日競うようになった。
もともと朝が弱い二人だから、一番最後に起きるのはどっちか、 みたいなことになっているのだが。
結果は望美の惨敗。
銀に起こしてもらっているのに、負けているのだからどうしようもない。
おはようと銀に言いながら将臣は望美の方へ向かう。
また、負けたなどとつぶやいている望美に軽くデコピン。
痛いよと顔を上げる望美に向ける苦笑は拗ねる妹の面倒を見る兄そのもの。
その様子に銀は内心ほっとしていた。どうしてかは、わかっていなかったけれど。
「うぅ〜、悔しい〜〜!!」
望美は涙目で銀を見上げる。
将臣とのやり取りは本物の兄弟のように微笑ましくて。
こちらを見上げるしぐさは小動物のように可愛らしくて。
くすくすと銀は笑う。
「笑ってるし〜〜」
「申し訳ございません」
ジト目でにらむ望美に銀が笑いながら謝る
「銀はこいつに甘すぎ。一人で起きるの待ってろよ」
「ですが、それでは昼を過ぎてしまいませんか?」
「それもそうか」
銀の返答は表面上はとても真面目だったけれど、明らかにからかいを含んでいて。
大ウケした将臣はヒーヒー言いながら笑っている。
「二人の意地悪〜〜〜!!!」
しかめ面の望美も二人の様子に思わず吹き出して。
三人の笑い声が朝の高館に響いた。
「非日常の〜」の対です。私には珍しいコメディ風味、第二弾。
銀の性格が変なのは、私の脳内妄想だからです。
これくらいじゃないと話が前に進まない!!
ちなみに望美さんは冬になっても将臣に勝てなかったらしいですよ?