A shower of bullets
「タオル」
とあるマンションの一室。
鍵のかかっていないドアを乱暴に開け、玄関から部屋に上がることなく望美が言う。
ポタポタと小さく響く水の滴る音。
外はどしゃ降りの雨。
「天気予報くらい、見ていったらどうだ?」
知盛は寝そべっていたソファから面倒そうに起きあがり、厚めのタオルを持っていく。
「うっさい。誰のせいで、遅刻しかけたと思ってんの?」
濡れそぼった長い髪をしぼりながら、怒る。
昨日の夜は大変だったのだ。
明日は学校だと言ったのに、この男は手加減というものを知らない。
訂正。
知っているのに、やらない。
どれくらいの嬌声を上げさせられて、何度果てさせられたかしれない。
そのせいで、朝の目覚ましにも気付かなかったのだ。
将臣からの電話で起きたら、始業時刻20分前。
隣で寝ている男を、どれくらい殴り倒してやろうと思ったことか。
「随分といい格好じゃないか…」
「バカなこと言ってないで」
雨に打たれたYシャツは透けて、体に張り付いている。
鎖骨や肩、ところどころに赤い痕。
これで外を歩いてきたなら、ずいぶんなものだ。
「有川にでも傘を借りればよかっただろう?」
「午後の授業、めんどうだって帰っちゃったんだもん。譲くんは部活あるし。 どっかの暇人はメールも電話も無視するし。嫌がらせに直接来てみたんだけど?」
「なるほど。誘ってるというわけか…」
「どうして、そうなるのよ。っていうか、知盛の頭の中はそういうことしかないわけ?」
怒りを通り越して、呆れるしかない。
とはいえ、まっすぐ家に帰らなかった自分も自分だ。
まったく、おかしくなったとしか言いようが無い。
この状態でここに来たら昨日の二の舞は必死だというのに。
「ってか、シャワー貸して欲しいんだけど」
「勝手に使えばいい」
「足が濡れてて部屋に上がれないから、足ふきタオル持ってきて」
「人遣いが荒いな……」
「一日、部屋から出てもいないんでしょ?少しは動け」
渋々といった感じで知盛がタオルを取りに行く。
黒地に赤いバックプリントの入った半袖のTシャツにジーンズ。
いつの間にか知盛はすっかり現代に適応していた。
嬉しいような、寂しいような。
けれど、知盛はどこまでいっても知盛だ。
それに少しホッとしてもいる。
絶対、本人には言ってやらないけど。
「さっさと上がれ」
タオルを無造作に投げて、本人はソファへ。
相変わらず、必要最低限なもの以外は何もない殺風景な部屋。
それが似合うのは知盛だからだろう。
「シャワー借りるね」
「あぁ」
返ってくる声は小さい。
「知盛?」
「……」
シャワーから上がって髪を拭きながら望美は声をかけるが返事はない。
ソファを覗き込むと知盛は気持ちよさそうに寝ていた。
寝てれば可愛いのに、と思う。
自分よりも7歳も年上の男が可愛いなんて変な話だけれど。
少しかための薄鈍色の髪に手を伸ばす。
昔、まだ向こうの世界にいた頃。望美はこの髪に触れたくて仕方がなかった。
その程度でよかった。
それが今ではどうだろう。
瞳を開けて欲しい、声が聞きたい、抱きしめて欲しい、キスをして。
欲望はとどまるところを知らず、ふくらんでいくばかり。
いつの間にこんなに欲深くなったのか。
あるいは、始めからだったのか。
「本当に、今日は誘いにきたのか?」
突然開かれる、藍錆色の瞳。
驚いていると、床に押し倒された。フローリングが冷たい。
「ちょっ…!知盛!!」
「俺の前で無防備なお前が悪い」
「わけ、わかんないよ!離してってば」
首筋から鎖骨、肩へと這わされる唇。
肩へのキスはいつだって執拗だ。
傷を覆うかのようにいくつも痕を残してゆく。
「やめて、ってば。知盛!!」
騒げば、無理やりな深い口付け。
こうなってしまえば、もうどうしようもない。
今日も夜が更けていく。
外は、雨だったんです。
このあいだ、にわか雨でびしょ濡れになったんです。
色っぽいのが書きたかったんです。
文才の無さに乾杯。
次の日の二人の会話。
「せめて、ベッドでやってくれる?体中が痛くて仕方ないんだけど」
「ベッドなら、いつやっても良い…と?」
「んなわけないでしょうが。この変態!!!」