泣くのも、泣かないのも。
 きっと全部、自分のためで。
 それはきっと、貴方のせいだ。

The root cause


 朔との買い物も。
 お店のおばさんとの会話も。
 どこからともなく現れた黒い雨雲も。
 強く叩きつける雨も。
 木の下で声をかけてきた姿も。
 全部、あの時と一緒。
 まるでビデオを巻き戻して、もう一回見ているような。
 今はもう慣れた、運命の行き来。
 違うことがあるとすれば、それは私自身で。
 この先の未来で何が起こるかを知ってしまった。

  「なぜ、泣く?」
 ざあざあと雨の音。雨宿りの大きな木の下。
 知盛の不可解そうな顔。
 雨の匂いに混じる香の香りでさえ、私の脆い涙腺を緩ませるには十分。
 ぽろぽろと涙が止まらない。
 「俺が怖ろしいか?」
 そういう理由で泣けたなら良かった。
 知盛の存在が私の中でその程度だったら。
 そうしたら、こんなに苦しくなくて済んだのに。
 だけど、私が泣く理由はもっと別にあって。
 それは、知盛の存在が大きすぎるから。

 きちんと調度の整えられたきれいな部屋。
 赤や黄色に色づいた庭。
 薄い茶色の大きな犬がしゃがんだ私に尻尾を振る。
 ゆっくりと流れる穏やかな時間。
 今までの戦のことなんて、何一つ無かったような。

 「泣かないんだな…」
 隣を見上げると、将臣くんの複雑そうな顔。
 あきれたような、なにか言いたいことがあるような。
 「いきなり、どうしたの?」
 「いや、お前が無理してるような気がしたからさ」
 本当にこの幼なじみには敵わない。
 必死に隠してきたことに、どうして簡単に気づいてしまうんだろう。
 足元でじゃれついていた金がふいっと離れていった。
 この犬もずいぶん賢い。いてくれた方が良かったのに。
 「泣けないのか?」
 本当は泣きたかった。大声をあげて、聞き分けの無い子供みたいに。
 そうしたら、きっと楽になれた。
 だけど、私は絶対にそれをしない。するわけにいかない理由があるから。


 泣くのは知盛がそこにいるから。
 生きている事実とこれから起こる悲劇に。
 泣かないのは、あなたが何処にもいないから。
 少ない記憶を失わないために。










 ブログに置いてあったものの再録です。ぜんぜん直してません。
 ごめんなさい、許してっ!!


 泣くことは、記憶のクリーニングで。
 泣けば泣くほど、良い記憶しか残らない。
 何一つ無くしたくないなんて、ただのワガママだとしても…